こんにちは。
ガラスコーティング剤の独自ブランド(ゼウスクリア)を展開する日本ライティングの内藤です。
今回は紫外線とカーコーティングについて解説したいと思います。車の塗装は紫外線によって劣化、色あせ、クリア塗装が剥がれたりすることがあります。
特に赤などの濃色車は色あせてくると古い印象を持たれてしまいます。
一方で、私たちは紫外線から身を守るために肌に日焼け止めを塗るので、「カーコーティングでも紫外線をカットすれば、塗装を長持ちさせることができるのでは?」と考えたことがある方もいるのではないでしょうか。
今回はそのような疑問にお答えできればと思います。
紫外線とは電磁波の一種です。私たちが目でみることができる電磁波を可視光線と呼び、波長で言うと400〜770nmです。
これが一般的に言う「光」です。これに対し、紫外線の波長は100~400nmと短く、人間の目で見られる領域の外なので、紫外線を見ることができません。
さらに、紫外線は波長ごとに「UV-A」「UV-B」「UV-C」に分類されます。
・UV-A (315-400 nm)
大気による吸収をあまり受けずに地表に到達します。生物に与える影響はUV-Bと比較すると小さいものです。太陽からの日射にしめる割合は数%程度です。・UV-B (280-315 nm)
成層圏オゾンにより大部分が吸収され、残りが地表に到達します。生物に大きな影響を与えます。太陽からの日射にしめる割合は0.1%程度です。・UV-C (100-280 nm)
成層圏及びそれよりも上空のオゾンと酸素分子によって全て吸収され、地表には到達しません。
上記の通り、UV-A、B、Cとこの順番にエネルギーは大きくなります。
UV―Cという非常に強力な紫外線はオゾン層によって吸収され地表には届かないので、地上に届く紫外線はUV-AとUV-Bということが分かります。
UV-Cはオゾンホールと言うオゾン層が薄い領域が発生すると地表にまで到達してしまい、DNAにダメージを与えて皮膚ガンの原因にもなると言われています。
特にオーストラリアはオゾン層が薄く、紫外線の量は日本の5倍ともお言われ、日焼け止めが欠かせません。
太陽光には、可視光線や紫外線、赤外線などのさまざまな波長の光が含まれており、目には見えませんが、紫外線は毎日地球に降り注いでいるのです。
そして、紫外線は波長が短い(より多く振動している)ので、強いエネルギーを持っており、生物や有機材料の化学結合にダメージを与えます。
したがって、塗装の劣化を防止するためには塗装が紫外線を浴びないようにする事が重要と言えます。
「紫外線は強いエネルギーを持っているので塗装を劣化させる」とは言いますが、どのような仕組みで劣化するのでしょうか?有機材料が紫外線で劣化するメカニズムは2段階に分かれています。
最初のステップとして、紫外線の強いエネルギーにより、炭素―炭素結合や炭素―酸素結合といった塗装を構成する化学結合が切断され、「ラジカル」という活性成分が発生します。
このラジカルは結合が切断されて生成する化学種で、一般的には反応性が高い化学種です。
そして次のステップとして、ラジカルが空気中の酸素と反応しパーオキシラジカルが発生し、これが化学結合を切断し、再びラジカルが生成します。
そのラジカルが再び酸素と反応し・・・と何度もこのサイクルを繰り返すことで材料が劣化していくのです。
これに対し、自動車会社や塗料会社は紫外線で劣化しにくい塗装を検討しており、紫外線吸収剤やラジカルを捕捉する添加剤(HALSと呼ばれています)などを塗装に配合する事で、自動車の塗装の耐候性は従来よりも大きく改善されています。
昔の車は10年も乗っていると塗装が目に見えて劣化して古く見えましたが、最近の車は10年程度乗ってもさほど見た目が古くなりません。
夏にベランダや庭に放置したプラスチックはボロボロになってしまいますし、人間の肌も日焼けで真っ赤になってしまいますが、車の塗装はびくともしません。現在も自動車塗装の耐候性がいかに優れているかが実感できると思います。
紫外線カットの製品といえば日焼け止めです。
成分表示を見てみると、①紫外線を散乱させる材料として酸化チタンや酸化亜鉛といった顔料や②紫外線吸収剤としてトキシケイヒ酸オクチル等が配合されていることがわかります。
このような成分をカーコーティングにも配合すればいいじゃないかと思いますが、実は化粧品とカーコーティングでは大きく異なる点があります。
それは「膜厚」です。ここで、ランベルト・ベール則という法則をご紹介したいと思います。
吸光度(光の吸収度)Aは、モル吸光度係数(物質に特有な定数)ε、光を吸収する物質の濃度c(モル濃度)、光が通過する道のりdの掛け算で表されます。
この式から言えることは、紫外線をカットしたければ、膜を厚くして光が通過する道のりを長くする必要があるということです。
化粧品の紫外線防止効果を表すSPFという指標がありますが、SPFを測定する際の塗布量は1㎠あたり2μlが基準となっており、計算すると膜厚は20μmです。
つまり、化粧品の性能を十分に発揮するには20μm程度の膜厚が想定されている訳ですが、一方でカーコーティングは大面積で施工するため20μmの均一な厚さのコーティングを手作業で施工するのは困難です。
一般的にカーコーティングは膜厚1μm未満で、このような極薄の膜で紫外線をカットするのは非常に難しいことがお分かり頂けると思います。
膜が薄いのであれば紫外線吸収剤を大量に配合すればいいじゃないか、と思う方もいると思います。
理論上可能ではありますが、紫外線吸収剤や酸化チタンを高濃度配合すると、カーコーティングの撥水成分やバインダー成分と混ざり合わず、膜が濁ってしまうなど別の問題も生じてしまいます。
仮に、透明な膜を作れたとしても、紫外線吸収剤は炭素や水素を主成分とする有機化合物なので、紫外線を吸収するうちに壊れてしまうので、数年単位で車体を保護するのは難しいと言えます。
その度に労力をかけて紫外線カットのカーコーティング剤を施工するのは現実的ではありません。
つまり、化粧品は毎日塗り直す事が当たり前で、膜厚も十分に厚く、化粧品を塗る面積は車と比較すると随分と小さいので、労力と機能と価格のバランスが取れて商品として成り立ちますが、カーコーティングは毎日塗り直すことができず、膜厚が薄く、大面積に手作業で塗る必要があるので、労力と機能と価格のバランスが取れず、商品として成り立たないのです。
これまでの内容を読んで「カーコーティングを施工しても紫外線対策にはならない」と思った方もいるかもしれませんが、完全に無意味というわけではありません。
確かに膜が薄いので紫外線はほぼ素通りしてしまいますが、カーコーティングを施工することでクリア層の表面と酸素が接触するのをある程度防いでくれます。
つまり、紫外線により発生したラジカルが酸素と反応し、連鎖的に化学結合の切断が起こるのを防ぐ効果は期待できます。
市場には、UVカット機能があると謳うカーコーティング剤が販売されているようですが、「膜が薄いと紫外線もほとんど素通りしちゃうんだよな」と思い出していただき、あくまでもオマケ程度の性能と捉えた方が良いでしょう。
それよりもカーポートを設置したり、長期間車に乗らない際はガレージに駐車したり、カバーで日光が当たらないようにするなど、日々の物理的な紫外線対策の効果が重要です。
日焼け止めを塗るよりかは、室内にいる人の方が日焼けをしないのと同じですね。
一方で、UVカットの効果を強く実感できる製品もあります。それは、ヘッドライトのコーティング(ハードコート)や保護フィルムです。
実はヘッドランプはポリカーボネートというプラスチックでできており、紫外線の影響を特に受けやすい部材です。
皆さんも経験があると思いますが、5年もするとヘッドライトが黄ばんだり、白ボケたりして、年季が入った車に見えてしまいます。
これに対しヘッドライトのコーティングやプロテクションフィルムは膜が十分に厚く、UVカット効果を発揮できるものが販売されています。
例えば、UVカット機能がある厚さ150μmのウレタンフィルムをアクリル粘着剤でヘッドランプ表面に貼り付けるタイプの製品が販売されています。
ご参考までに。
https://start-trust.jp/headPf.php
フィルムを綺麗に貼り付けるには専門的な技術が必要なので、施工業者に依頼する必要がありますが、一度施工すれば分厚いフィルムによってヘッドランプが保護され、黄ばみや白ボケを防ぐことができます。
フィルムそのものが劣化してきたら貼り直せばよく、ヘッドライト自体を長期にわたって保護することができるのでおすすめできます。
今回は紫外線とコーティングについて解説しました。市場では紫外線カット機能を謳うコーティング剤が売られていますが、膜厚を考慮するとその効果は残念ながら限定的である事が理解いただけたと思います。
愛車を紫外線から守りたい場合は、ガレージやカーポートを設置して日光に当たらないようにしましょう。
一方で、特に劣化しやすいヘッドライトのプロテクションフィルムは十分な膜厚があり、UVカットの効果を実感できる商品です。
今回の記事の内容を踏まえ、上手に紫外線と付き合っていきましょう。