車のコーティング剤を選ぶときに気になるのが、コーティングの硬さです。「鉛筆硬度9H」や「ハイモースコーティング」などと書かれているコーティング剤を見て、どの程度硬いのかイメージしづらい方もいるでしょう。また、硬度が高いコーティング剤を使ってコーティングを終えたからと言って、車の傷を完全に防げない点にも注意が必要です。
この記事は車のコーティング硬度である2つの指標、および各コーティング硬度の硬さの基準や、コーティング剤の選び方について解説します。車のコーティングを考えている方は、この記事を参考にしてください。
目次
車のコーティング硬度とは、コーティング被膜の硬さを表します。コーティング硬度は大きく2種類に分けられるため、それぞれの表記や基準を押さえておくとよいでしょう。
ここでは、車のコーティング硬度の種類について紹介します。
モース硬度とは、宝石などの鉱物を基準として硬度を表す指標です。10段階に分けられており、モース硬度1が最も柔らかく、モース硬度10が最も硬い段階です。各段階では、硬度の目安となる鉱物の種類・傷がつく目安が定められています。
具体的な指標は以下の通りです。
段階 | 物質の例 | 傷がつく目安 |
1 | 滑石 | 人間の爪で簡単に傷がつく |
2 | 石膏 | 人間の爪で傷つけられる |
3 | 方解石、アルミニウム | 10円玉でこすると傷がつく |
4 | プラチナ、鉄 | ナイフの刃で簡単に傷がつく |
5 | 黒曜石、人間の骨、ガラス | ナイフの刃で傷がつく |
6 | ラピスラズリ、人間の歯(エナメル質) | ナイフの刃では傷つけられない |
7 | 水晶 | 鋼のヤスリで傷がつく |
8 | トパーズ | 鋼のヤスリで傷がつかない |
9 | サファイア、コランダム | ダイヤモンド以外の宝石で傷がつく |
10 | ダイヤモンド | 地球上の鉱物の中で最も硬い |
モース硬度が採用されているコーティングには「ハイモースコーティング」があります。ハイモースコーティングは、モース硬度6の硬いコーティングです。
鉛筆硬度とは、鉛筆芯の硬さを基準として硬度を表す指標です。
鉛筆の芯の硬さには、以下の17種類があります。
最も柔らかい芯は6B、最も硬い芯は9Hです。つまり、車のコーティングで「鉛筆硬度9H」と表記されていれば、鉛筆硬度の指標においては最も硬いコーティングであると判断できます。
ただし、実際の鉛筆の芯を思い浮かべると分かるように、たとえ最も硬い9Hの鉛筆であっても、人の力を加えることで芯は折れてしまいます。鉛筆硬度9Hのコーティングを選択した場合であっても、まったく塗面に傷がつかないというわけではありません。
鉛筆硬度の中で最も硬いのが9Hであることから、「鉛筆硬度9H」と表記されていると、コーティングの中でも特に硬い製品であると考えがちです。
しかし、鉛筆の芯と鉄や水晶を比較すると圧倒的に鉄が硬いという点からも分かるように、鉛筆硬度はモース硬度よりも柔らかめの硬度幅です。鉛筆硬度9Hはモース硬度に当てはめると5程度であるため、「鉛筆硬度9H=モース硬度6より硬い」と誤解しないようにしましょう。
また、鉛筆硬度やモース硬度が表すのは、コーティング被膜単体を結晶化させて測定した硬度です。車の塗装面に形成される被膜はコーティング被膜単体よりも硬度に劣るため、実際にコーティングするときには、メーカーが表記する硬度基準よりも柔らかくなります。
車の塗膜硬度を上げるには、多重層コーティングで被膜部分を厚くするのが有効です。
一般的に、国産車の塗装の硬さは約2Hです。
車に鉛筆硬度9Hのコーティングを1層塗ると、硬度を1H程度強化できます。つまり、もともと約2Hである国産車の塗装を9Hまで強化したい場合は、9Hのコーティングを7層重ねる必要があります。
ただし、通常のコーティングは重ね塗りによってひび割れを起こす可能性があることから、重ね塗りには2~3層までしか対応できません。車のコーティング被膜を鉛筆硬度9Hまで強化したいときには、最大10層の重ね塗りに対応できる専用のコーティング剤を利用するのがよいでしょう。
車のコーティングにはさまざまな種類があり、それぞれで特徴や硬度が異なります。
一般的なコーティング剤であるガラスコーティングとセラミックコーティングの鉛筆硬度は、以下の通りです。
鉛筆硬度 | 多重層の重ね塗り | |
ガラスコーティング | 2H~9H | できない |
セラミックコーティング | 9H | できる |
ガラスコーティングはコーティング被膜単体では鉛筆硬度2H~9Hですが、実際に塗装した際には塗装面が非常に薄いことから、表記よりも硬度が下がります。また、重ね塗りによって硬度を上げると熱による伸縮でひび割れ・剥離を引き起こすため、多重層の重ね塗りはできません。
対して、セラミックコーティングはガラスコーティングよりも強度が高いコーティングとして知られています。多重層の重ね塗りが可能であり、鉛筆硬度9Hのコーティングを実現できます。
セラミックコーティングは、コーティング硬度の高さ・傷のつきにくさという点ではトップクラスであると言えるでしょう。
鉛筆硬度9Hのコーティング被膜は傷がつきにくいものの、まったく傷がつかないわけではありません。
車のコーティングは、硬度が高ければ高いほど傷がつきにくくなります。しかし、車表面の傷の原因となる鉄粉・砂利などはコーティング被膜の鉛筆硬度9Hよりも硬いため、スクラッチ傷を防ぐのは不可能です。
また、鋭利な金属片などでコーティング被膜を擦れば、当然傷跡がつきます。さらに、硬度が高いコーティングはひび割れが起こりやすいというデメリットもあります。
洗車機を利用したお手入れは特に傷がつきやすく、鉛筆硬度9Hのコーティングを施していても傷ついてしまうケースがほとんどです。コーティングしていない部分と比較すれば傷は目立ちにくくなるものの、コーティング部分にも傷は入ります。
「鉛筆硬度9Hのコーティングをしたら傷の心配はないだろう」と考える人も少なくありませんが、傷がつかないわけではないという点を押さえておきましょう。
「車のコーティング=ボディ表面を保護する役割を持つ」という印象から、コーティング剤は硬度が高ければ高いほど品質がよいと判断する人は多いでしょう。しかし、コーティングの良し悪しは硬度だけでは決まりません。
硬度が高いコーティングは確かに傷がつきにくくなりますが、傷や変形を完全に防ぐ効果は得られません。最も硬い鉱物として知られるダイヤモンドであっても工具で衝撃を加えれば割れてしまうように、鉛筆硬度9Hのコーティングを施していても傷のリスクはつきものです。
また、硬度強化のためにコーティングを重ねて厚みを出すと、塗膜のひび割れ・剥離が起こりやすくなるというデメリットもあります。重ね塗りによるデメリットを軽減するには、作業者の高いコーティング技術が求められます。
愛車のコーティングをする際は、硬度が高いコーティングのメリット・デメリットの両方を理解した上で、バランスを考えながら施工方法を選択するのがおすすめです。傷のつきにくさはもちろん、下地塗装との相性がよいか、基材の熱伸縮に耐えられるかなどの点にも注目してコーティング剤を検討しましょう。
車のコーティング硬度はほとんどがモース硬度と鉛筆硬度を指標としています。いわゆる「ハイモースコーティング」はモース硬度6で、これはラピスラズリと同等です。また、鉛筆硬度の中でも最も硬い9Hのコーティングは、モース硬度5程度の硬さがあります。
ただし、コーティング剤の硬度が高いと傷がつきにくくなるのは確かなものの、必ずしも傷がつかなくなるわけではありません。また、硬度を上げるためにコーティング剤を重ね塗りすると、塗膜のひび割れや剥離が起こりやすくなるというデメリットもあります。